【神戸阪急店店長】英国一人旅 ⑧

お腹も心も満たされ再びダートムーア茶園に戻ってきました。
ジョーとキャサリンがまた紅茶を入れてくれてしばし談笑。

「ところで、ここでジョーたちの紅茶を買うことは出来るの?」と問うと、ジョーが少し悩ましい表情で僕に「勿論、買えるよ。だけど、高いよ?」と答えました。

まぁ、英国だしな。円安もあるし高いのは仕方ないよね。

「問題ないよ。いくらするの?」

「50g入りで10,000円。」

ある程度予想はしていたけど確かに高い。うーん、3種類くらい買おうと思ってたけどさすがに厳しい。どうしようかなぁ。と悩んでいるとジョーは僕がショックを受けていると思ったみたいで、僕に伝わりやすいように言葉を選びながらゆっくり話してくれました。

「もしかすると、僕たちのお茶が高くてショックを受けたかもしれないけれど…」

「僕たちはお茶を作り始めて9年目で、様々な生産国に訪れ、沢山お茶について勉強をして、今も勉強を続けていてトライ&エラーを繰り返しながら、良いものが出来るようにお茶を作り続けている。」

「私たちはお茶の経験、生産、評価、そして業界に関わる全ての人を維持し向上させるために、コミュニティとお茶農家、愛飲家、愛好家との繋がりを拡大し続けることでこの経験を共有したいと考えているの。」

「私たちは人、植物、製品の間の真の繋がりを維持できるように小規模かつ謙虚であり続けたい。」

「だから価格もできるだけ抑えたいと思って設定している。」

「だけど、ビジネスだということも分かってほしい。」と申し訳なさそうに言うジョーとキャサリンに僕は心がギュっとなりました。そして、今まで生きてきた中で【ビジネス】という言葉を初めてポジティブな意味として捉えることが出来た瞬間でもありました。

そうだ、そうだよな。この人たちはこれで真剣に食っていこうとしているんだもんな。
まだまだ小さな小さな茶園で、製茶する工場もなくて、この小さな部屋で小さな機械や器具を使って製茶して、ハンドロールと言えば聞こえがいいけど手摘み、ハンドロールしか出来ない環境なんよな。


インドやスリランカみたいな生産国とは違って凄く規模が小さい中、この二人は英国でお茶を作って自分たちのお茶、英国のお茶だって美味しいことを証明しようと一生懸命やっている。

10000本のお茶の樹を植えて製茶できるのはわずか30Kg。

そりゃあ、この価格になるよな。生産量に労力のことを考えたら、もしかすると安い方かもしれない。
本当はもっと金額を乗せたいのかもしれない。でも、そうしないのは彼らの誠意なのかもしれない。
この辺に関しては全て僕の憶測だけど。

イングリッシュブレックファストのような日常茶を作ろうにも茶の量が足りない。土地が足りない。人手が足りない。機械が足りない。それらを解決するためには当たり前のことだけどお金がいる。

そして何度も言うようにこの人たちはこの商売で食っていこうとしている。生きていこうとしている。
大前提としてこれで生きていかなければいけないのです。

日本に帰ってきた今でも何度も何度もこの時の言葉を思い出し、凄く考えさせられます。
ビジネスという言葉が凄く重く感じ、高いのが正義、安いのが正義、どちらかが悪、とかそういう話じゃなくてビジネスの根っこの部分って「儲ける」じゃなくてシンプルに「生きていくため」なんじゃないのだろうか。

大袈裟に聞こえるかもしれないけど本当に命かけているんじゃないのかな。
と、ジョーとキャサリンに出会ってそう思うようになりました。
それは彼らの誠意が僕にしっかりと伝わって響いたからです。

「大丈夫、理解しているよ。だから、ジョーとキャサリンが作った紅茶を買いたいです。売ってくれる?」

「もちろん!どれにする?」

「ジョーのオススメで!」

ダートムーア茶園に来て本当に良かった!ジョーとキャサリンに出会えて本当に良かった!
また必ずここに来よう。二人に会いに行こう。

つづく