「やーやー、おまたせ。」
「さ、中に入ろうか。」
ロードが戻ってきてショップの中へ。
店内は紅茶以外にハーブティーだったり、ジンや蜂蜜なども商品として展開されていました。
広さはムジカティー本店よりももう少し狭いかも。
壁には世界時計が掛けられていたり、トレゴスナンの歴史が飾ってあったり、見ていてとても楽しい空間で、このちょっと狭くてごちゃっとした感じが少しムジカティーの本店と似ていて居心地の良い空間でした。
「そういえば、名前をまだ聞いていなかったね。」
「ルキです。初めまして!」
「ルキだね。ルキはどこから来たの?」
「日本から来ました。」
「そうか。じゃあ、ここまで来るのは長旅だったでしょう。」
僕は、トゥルーロに来るまでにトットネスで茶園見学をしたこと、日本の紅茶専門店で働いていること、今日のツアーを楽しみにしていたことを拙い英語で一生懸命ロードに伝えました。
会話の途中で残りの参加者から、集合場所を間違えてしまって今こちらに向かっていると連絡がありました。
「ほかの二人が遅れるみたいだから、お茶でも飲みながら待ってようか。」
「え、いいの?」
「勿論!トレゴスナンティーを入れてあげよう。」
高価なものだから後から来る二人には内緒だよ。と茶目っ気な顔でウインクをするロード。
トレゴスナンのシングルエステートかぁ!と思って商品を見てみると50ポンド(約1万円)。
50ポンドかぁ。確かに高いけどジョーとキャサリンのところとそんなに変わらないなぁ。
と思ってふとプライスカードを見てみると内容量11gの文字が。
じゅ、11g?!!!!
「あ、あのロードさん?これ凄く高価だけど本当に良いの?」
「良いの良いの。今日は特別。」
そういってお店の奥にあるキッチンでお茶を入れ始めるロード。
「さ、待っている間ティータイムを楽しもうじゃないか。ね?」
紅茶を飲んでいる間、僕とロードは会話を沢山楽しみました。
ロードは81歳でこのトレゴスナンのツアーガイドをしていること、僕と年齢の近いお孫さんがいること、日本には訪れたことはないけど日本の文化が好きなこと、そして、拙い英語と身振り手振りでジェスチャーしながら話す僕を見て「そうか、そうか。」とにこにこ優しい笑顔で頷き僕の話を聞いてくれるロード。
そんな優しいロードを見た時に、どうしてか急に自信がなくなった瞬間がありました。
「英語上手く話せてないよな。」「ちゃんと伝わってないよな。」「もっとちゃんと伝えたいのにな。」
そう思い始めるとどんどん言葉が出てこなくなって、いつも以上に言葉が詰まりだして、そんな僕に気づいてロードが僕にこう言いました。
「ルキ、君は自分の英語に自信がないのかもしれないけど、君の言葉は僕にちゃんと伝わっているからね。」「それに君の英語はとても上手だよ。」「ゆっくりで良いからルキが話したいことをいっぱい話してごらん。」「僕はちゃんと聞いてるから。」「そして、僕もルキに伝わるようにお話するからね。」
大丈夫、大丈夫。何も不安に思うことはない。と。
この言葉をかけられた時、目の奥がジーンとしてちょびっと涙が出そうになり、僕は慌ててカップに入った紅茶を口に含みました。草花のような若い香りが鼻からスッと抜けていき、舌の中でコロコロと転がるような柔らかな渋み。
ふと目線を上げると変わらず優しい笑顔のロード。
この時に感じたこのトレゴスナンティーの味やこの光景のことを、きっと僕は生涯忘れることはないんだろうな。
つづく